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与謝野晶子「みだれ髪」 ブログトップ

その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな [与謝野晶子「みだれ髪」]

その子二十 櫛にながるる黒髪の
 おごりの春の うつくしきかな
          与謝野晶子


春の陽射しの中、目の前の娘は二十歳になるという。
その黒髪は命の勢いを表すように、櫛で梳く度、まるで滝の流れのように、日の光がその上を走っていく。

あら。
この娘は、二十歳の時の私かもしれない。
若いことは時に疎ましく、未熟さを指摘されれば悔しかったけれど、でも私は、私の未熟さを咎める大人たちが、私をうらやんでいることにちゃんと気づいていた。

あの人たちがとうに無くした若い時、
その直中に今生きているのだと、
私は勝ち誇った気持ちになっていた。

若さとは、傲慢で、だけれども美しい、光溢れる春である。



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与謝野晶子「やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」 [与謝野晶子「みだれ髪」]

やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
                              与謝野晶子


その手を伸ばせば、とどくところに私は居るのに
あなたがすっかり忘れてしまった若い肌をもって私が居るのに
あなたはいつまで、私の思いから逃げ続けるの。


人の道がどうしたとかこうしたとかうだうだと、
空しくはないの、あなた! ! !




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与謝野晶子「乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き」 [与謝野晶子「みだれ髪」]

乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き
                              与謝野晶子


あれはいつのことだったか。
あなたと初めて結ばれた日。

薄明かりの中
身に着けたものをすっかり取り払った私は
たわわの乳房に両手をあてがい
あなたの休む床の掛け物を、つま先でそっとよけた



ここから先は私の知らない世界

性愛という神秘の森

あなたは私を迎え入れる


私もあなたを迎え入れよう



私の奥深くへと続く道の入り口
ここにある花は高まって
花弁の紅が
いつにも増して濃くなっていたに違いない




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与謝野晶子「額ごしに暁の月みる加茂川の浅水色のみだれ藻染よ」 [与謝野晶子「みだれ髪」]

額ごしに暁の月みる加茂川の浅水色のみだれ藻染よ
                          与謝野晶子


褥の中。

あなたの額の向こうで、
夜が少しずつ明けてゆく。

白んだ空に、なお白い月が浮かんでいる。


加茂川の流れる音が聞こえる。


川の底ではたくさんの藻が
流れにまかされその身を烈しく揺らしているんだろう。

全て白んだ世界の中で、
浅水色に映る藻を、
せめて鮮やかに染めてはくれぬか。





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与謝野晶子「たまくらに鬢のひとすぢきれし音を小琴と聞きし春の夜の夢」 [与謝野晶子「みだれ髪」]

たまくらに鬢のひとすぢきれし音を小琴と聞きし春の夜の夢
                             与謝野晶子


あなたと睦み合って、駆け上って、
私は満ち足りて眠ってしまた。

春の夜は底が白んでいるように、冬の闇より明るい。


すぐ近くで、小さく琴の音が聞こえた。

目覚めようとして思い出す。
私はあなたの腕の中で眠っていたんだった。

あなたの腕を枕にして、寝返りをうった拍子に
鬢が一本切れた。

琴の音は、私の髪が立てた音だった。


私は目覚めるのを止め、すっかり馴染んだあなたの匂いにつつまれて
反対側にくるりと寝返りをうち、
あなたの胸に、顔をうずめた。




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与謝野晶子「臙脂色は誰にかたらむ血のゆらぎ春のおもひのさかりの命」 [与謝野晶子「みだれ髪」]

臙脂色は誰にかたらむ血のゆらぎ春のおもひのさかりの命
                             与謝野晶子


もうずっと昔。
私の体から溢れ出た満ち潮はまだまだ儚くて
赤い色も消え入りそうなほどだった。

あの日から数え切れない潮の満ち引きがあって
私の体はすっかり女になった。


あなたを好きになった今年の春の宵にふと顔を上げれば、
木蓮のつぼみが膨らんで、もう少しで花びらを開いていきそうだ。

まるで春の宵に灯る幾つものぼんぼり。

月は朧。
木蓮が霞む。


あなたを好きで、あなたを好きで。

ゆらりゆらりと体の芯が揺れている。

あなたを好きで、あなたを好きで。

私の体が満ち潮になる。

あ。

満ち潮が溢れた。

遠い日の淡い色ではない。
想いを重ねて重ねて、
私の経血は臙脂色になった。


このことはもちろん、
あなたにも誰にも言わないけれど。



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与謝野晶子「詞にも歌にもなさじわがおもひその日そのとき胸より胸に」 [与謝野晶子「みだれ髪」]

詞にも歌にもなさじわがおもひその日そのとき胸より胸に
                              与謝野晶子


誰にも知られてはならぬのだ。
文字に残してもならぬのだ。

ああ。
あなたが今、其処に居る。

私は聞く気もない話を聞いているふりをして、
おかしくも無いが笑ってみせる。
目の隅にはあなたを捉えたまま。

あなたは私を見ている。


これが私の詠みたかった歌だ。
けれど決して言葉にはしない歌だ。

誰もしらない、それでいい。

あなたにさえ届けばそれでいい。

私は一瞬あなたを見つめる。
この一瞬のために、私は今日を生きているのだ。

誰にしられなくてもいい。
世にみとめられなくてもかまわない。


これが私の歌だ。
これが私の思いだ。

あなたに届いただろうか。

私の胸から発した言葉達が、
姿を成さない命そのものが
あなたのその厚い胸で
受け止めてもらえただろうか。



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