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池田聡「倉庫BARにて」 [音楽]

池田聡「倉庫BARにて」
作詞:松本一起/作曲:佐藤 健/ 編曲:奥 慶一  
アルバム「missing」より

二十代前半の男女が、子どもの名残のような、本物の大人の入り口のような恋をしている。

女には好きな人がいる。でも片想いだ。
その女に想いを寄せる男がいる。

80年代半ばの東京の夜は明るかった。
季節はいつなんだろうか。
夏のような気もするし、春のような気もする。

紀尾井町の坂を下る。
右手にニューオータニ。
そうだ。
季節はきっと春だ。
長い時間をかけて膨らんだつぼみがようやく解け、
一つ二つ開いた花を見かけたばかりだったのに、
清水谷公園を越えて行けば、池に伸びた枝は、たわわなほど満開の桜だ。

まっすぐ歩いて左に入る。
赤坂プリンスの桜も見ごろ。

春の宵は色っぽい。

ロビーで待ち合わせた女は、振り向くと目が腫れている。
又泣いてたのかと男は思う。



どうしてわからない?
君はそのままで十分素敵なのに、どうして自分以外の人になろうとするの?

だってあの人は、私のことを好きになってくれないんですもの。
私じゃなくて別の人を、好きなんですもの。

傷心の若い女が焦れて言う。
決して怒らない男に八つ当たりする。
そのうち気持ちが高ぶって、又涙が出てくる。

どうしてそんなに彼をおいかけるの?
背伸びして違う自分を演じながら、自分の良さを消してしまうの?
そんな男は忘れてしまいなよ。

嫌よ。
だって私はあの人を好きなんですもの。
あの人じゃなきゃ駄目なんだもの。

―ぼくはずっと君を見てるのに

女は知っている。
今目の前に立つ男が、自分を想っていることを知っている。
それでも断ち切れない思いがある。
そして、目の前の男に傾く想いの間で揺れ始めている。



白夜のように、決して暮れきりはしない夜が続いた時代だった。
二十代半ばの私は恋をしていた。
それは片想いで、必死で追いかけた人は、けっしてこちらを振り向いてはくれなかった。

池田聡の声は、程よく甘く、暖かかった。
ただの片想いだったのに、この曲を聴いていると、
まるで自分を想ってくれる誰かがいるような気がした。

「missing」に収められたこの曲を歌う彼の声は、明らかに若い。
青年の声だ。
私はその時代、まだ若い女だった。


腰まで伸ばした髪をソバージュにした女の子と、やけに肩幅の広いソフトスーツを着た男の子が街に溢れていた。

誰かが誰かを追いかけて、決して向き合うことのない恋の「輪唱」。
池田聡の歌は、まるでその輪の中に自分がいるような、
どこかに自分を見つめ思いを募らせる男の人がいるのだという
そんな夢を見させてくれた。

この歌の男女はどうしたのだろう?
女の子は、片想いの彼をあきらめて、目の前の誠実な男の子と
もしかしたら結婚したのだろうか。

それとも二人とも、付き合うこともなく、いつか遠く離れてしまったのだろうか。


この曲は、都会の夜の池に映った月みたいに、揺らめきながら輝いている。
高速道路に煌く、無数のライトの川の流れみたいでもある。

まだ、未来が明るかった80年代。若かった自分。
その時していた恋。
その時の、街の匂いも風のそよぎも、すべてがこの曲に詰まっている。


なので私にとっての「倉庫LOFT BARにて」は、もうこれで完結している。
近年、別のアレンジで再販されたけれど、それは私にとっては違う曲である。
赤プリの巨大な建物は消えた。
二十代半ばの私も、デビューしたばかりの池田聡も、あの時代の空気も今は無い。
ただこの曲のイントロが流れ始めれば、時の神様がウィンクしたように
私はあの日の東京に、飛び込んでいけるのである。



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桜

こんばんわ(^-^)
2015年になり早くも3月。去る弥生3月というそうですが、時間の流れに怖さを感じる程。国内外でいろんな事が起こりすぎて特に今年はそう思います。
この曲を聴いた頃ロフトバーやカフェが流行っていて、私はまだお酒とは縁がない学生でしたのでちょっと背伸びした世界に憧れました。その詞とメロディーに池田聡さんの歌声が三重奏となり『うわ…大人や~』と。こんな恋愛、いつか自分にも…なんて思っちゃった田舎の女の子でしたね。そして女の狡さを後に知らされたのもこの曲でした。
綺麗で甘いんだけど、まだまだ粗削りでせつなげで一生懸命なその声に、曲の世界の二人が浮かんできて…。今も殆ど変わらない歌声の池田聡さん。大人の男性なのに何処か青年の名残もあるみたいな。ですが、今は厚みというかドーンと声の塊が押し寄せる感覚があります。私もこの曲に限らず“あの時の池田聡”だったからこその作品達であったのだと思います。セルフカバーやライブで歌われる時は、今現在の池田聡さんの『その作品の世界』です。あの頃と年月を重ねて思う、同じだけど違う2つの世界。
昨年末からの数ヶ月、自身の健康についてかなりナーバスに不安な時間を過ごしました。幸いにもひと安心できる結果を頂けましたが、それまでは現在までのいろんな事…辛さや憧れ、夢や想い、そして未来にきちんと向き合ってきたのかな、とまで考えてしまったり。
懐かしんでばかりはダメかもしれないけど、全て大切な存在してきた証です。その大事な瞬間に戻れるって素敵な事です。私にとっても、池田聡さんはその『どこでもドア』のひとつかな~なんて。
久しぶりのshoさんの池田聡考察、本当に嬉しかったです。やっぱり着目点が素晴らしいと思います。また楽しみにお待ちしています♪
私の地元では春を呼ぶと云われる伝統行事の最中です。まだ寒さ残る折、どうかお身体に気をつけてお過ごしくださいね。
深夜の長文駄文、失礼いたしました。
by 桜 (2015-03-04 00:05) 

Sho

to スーさん

どうもありがとうございます。
by Sho (2015-03-05 22:48) 

Sho

to 桜さん

こんばんは。
実は、私は今そんなに、池田聡さんのファンというのではなくなっています。
とても久しぶりに昔のこの曲を聴き、「ああ、やっぱりいい曲だなあ」と思い、この文章を書きました。書かずにはいられない思いになりました。
でもそれは、四半世紀以上前の「あの時の」この曲に対してです。

池田さんは、書いてくださったように、本当にいい歌手だと思います。
歌はうまい。声もいい。技巧だけではなく、本当にうまいと思うし、いい歌手だと思います。
お人柄もとてもチャーミングだと思う。
この人の歌を、もっとたくさんの人に聴いてほしい、知ってほしいと思いました。

ファン、ってなんでしょうね?
それぞれのファンが、池田聡の世界に惹かれ、そして何か応援したいと思い、それぞれに行動する。

ファンクラブの人限定の集いがあるでしょう?
それはそれでいいとして、サポーターの集いがあってもいいのになあ・・と思います。きっと、日ごろ頑張ってフライヤー置いてもらってる人たち、とってもうれしいと思います。

「ぶらりツアー」もね、握手は、CD買った人だけでなく、希望者全員は無理なのかなあ?と思います。もちろん、会場のキャパにもよるだろうけど。
池田さんはギター弾くひとだから、手指も守らなきゃいけないけど。
「ぶらりツアー」っていうのは、そういうことができるのがいいところじゃないのかなあ・・とも思うんですよね。

なんかねえ、ファンしてるのも疲れちゃったんです。
「不毛」というか、虚しいというか・・

池田さんは、何を目指しているのかなあ?
何処にいこうとしてるんだろう?

繰り返しになりますが、「ファン」ってなんなんでしょうね?
素敵!!、かっこいい!!、感動しました!!、よかったです!!
それだけを言うことがファンだとは、私は思えないんです。
それに、ずうずうしい人がいい思いをする-っていうのを、幾つか目にしてしまった気がして、それもとても哀しく残念でした。些細なことですが。

うん。ファンって何なんでしょう。
私はいまだにわかりません。

by Sho (2015-03-05 23:01) 

桜

shoさん、こんばんわ。私の拙い文章にコメントありがとうございます(^^)
私はデビュー時にひと聴き惚れしてからのファンです。ですが、継続してたわけではありません。途中いろんな分野の方を大好きな時期がありました。彼のCDは発売の度に買うものの聴くでなく手元にあるだけ、みたいな。数年前に公式HPを偶然見つけて、そこからの復活組です。
自分に都合の良いエゴを求める…それが、ファンかなぁ。理想の姿とか想いとか。やっぱり人間だから見返りも求めてしまうし。で、表裏一体で怒りも。私も、ただ無条件に褒め賞賛するだけがファンだとは思いません。辛辣で客観的な目線もないと、双方にとって不幸です。時にそんな厳しき意見を目にする事がありますが、それは叱咤激励の思いからだと思うのです。
一昨年久しぶりのライブ会場でお会いした、熱心な方に伺いましたがシングルCDを何枚も持ってる方が多いそうです。理由は…ご想像の通り。少しのコンタクト機会の為に…何か虚しく寂しいなぁと感じました。おっしゃるような時間をファン全てと持ってくださったら最高ですが、いろんな事情でしたり出来なかったりしたら、また不公平だし…となるのかな…。やっぱり難しいのかな…。
そんなエゴを受ける立場、本当に大変だと思うのです。大切にしないといけない存在だとわかってたら尚更、真正面から向き合うでしょう。わかっていてもファン(私含め)は要求しちゃうものだし…。
本当に難しいです。私は無理せず、タイミングあう時にライブやCDを楽しみ、長く応援していきたいと思います。って、やっぱり自己チューなエゴかな…。
何か支離滅裂になってしまい申し訳ありません。またどんな形ででも池田聡さんの事でshoさんの言葉を読ませていただけたら嬉しいです。
またお邪魔させてくださいね。よろしくお願いします。
by 桜 (2015-03-06 22:03) 

Sho

to 桜さん

お返事を、ありがとうございます。
ファンというのは、きっととても自分勝手なものなんでしょうね。一人一人がそれぞれに。

同じCDを何枚も持っている人たちのこと。そういう状況がおきるよなあ・・と思います。
「握手」だけじゃなくて、直接に言葉を交わす、日ごろ思っていることを直接ご本人に伝える、というのは、それしかできないわけですものね。
でも、それをするために同じCDを何枚も買う。
私は、こういうことをファンにさせてはいけないと思います。

お金や時間をやりくりしてライブにでかけ、その1枚数千円のCDを買うゆとりさえない人もいると思うんですよね。そういう人に、悲しい思いをさせちゃいけないと思う。

直接話すにはCDを買わなきゃいけない、と思っていると、ライブ終了直後に、ご本人にプレゼントを渡して話している人がいる。
え?何なの?そういうのありなの? と、思いましたよ。

そして、要領のいい人、ずうずうしい人が、ずるをしたり、ルール違反をして結局はいい思いをしている事例も、いくつか知りました。

池田聡という歌手に対しては、「惜しいな」という思いがありました。
もっと評価されていいと思うし、もっともっと多くの人に聴いて、知ってほしかったから。
ただ、ご自身で、何かいろんな「芽」を摘んじゃってるところもある気がします。そこが又惜しいんだけど。

率直なお気持ちを書いてくださって、ありがとうございました。
もう春になりましたね。
どうぞご自愛ください。

by Sho (2015-03-07 07:51) 

桜

Shoさん またコメントいただき本当にありがとうございます。
全て、その通りだと思います。そんな思いや、そんな事させちゃったらダメです。本人が納得してる(かはわからないけど)からイイぢゃんって話ではないし。そして『惜しい』って表現も…。めっちゃ惜しいんですよね。如才なく立ち回れる方ではなさそうだし…。
これからも、そんな視線で見守ってくださるshoさんのような方がいらっしゃれば少しずつ良い方向へ舵を切ってくださる気がします。…なんて、勝手にご迷惑な事を言ってごめんなさい。
いつもこちらのblogを読ませていただいて、自身のいろんなことに向き合うようになりました。仕事や恋愛、家族や友人…。まだまだ大人になりきれていない私にとって、失礼乍らひとつの指針盤のようです。偶然の巡りあいに、とても感謝しています。愚妹のような感じで、お相手してくださると嬉しいな♪
Shoさんは花粉症は無事ですか?寒暖差がまだまだ激しいので気をつけてお過ごしください。
by 桜 (2015-03-07 13:32) 

Sho

to 桜さん

過分なお言葉に恐縮しています。ほんとに。

私はたいしたこともできないファンでしたが、もし、私の書いた拙い文書を読んで、その曲を聴いていた頃のことを何方かが思い出してくださったらとてもうれしいです。
そして、その人が思い出しているその時間、暖かいハーモニーが生まれているように感じます。

私は人様の羅針盤になれるような人間ではないです。
暖かいお言葉を、ありがとうございました。
桜さんも、どうぞお元気でお過ごしください。
by Sho (2015-03-08 13:19) 

pulse

はじめまして。
今朝、夢の中でこの曲が流れて、起きがけに検索して辿り着きました。
良い曲ですよね。僕は当時10代で、missingの中ではmy jennyとdianaが好きでした。でも大人になるに連れて、いつの間にかこの曲の方が好きになり、今もこの曲だけが、ときどきふと心に浮かんで来ます。
ずっと優しくありたいと思っていたので、池田さんの歌う男性のリキミの無い優しい視点に自分を重ねながら、憧れていたのだと思います。
本当にこの曲の中の2人は、その後どうなったんでしょう。少し切ないですね。
それでは。早朝に突然の書き込みすみません。良い一日を。
by pulse (2015-03-21 07:14) 

Sho

to pulseさん

はじめまして。とてもうれしいコメントを、ありがとうございます。
そうでしたか、この曲が流れていた当時、10代でいらっしゃったのですね。
このように、同じ空の下、いろんな年代の人たちが、この曲に耳を傾け、
その時を生きておられたのだなあ・・・と、果てしない数の物語の存在を教えていただいたようで、懐かしく、うれしくなりました。

おっしゃるとおり、池田さんには「力み」が無く、それが大きな魅力なのでしょうね。初めて気づかされました。
この曲の二人はー そして、この曲を聴いていた人たちは、それからどんなに人生を歩んでいったんでしょう。

いただいたコメントで、素敵な一日のスタートが切れました。
お返事が遅れましたこと、申し訳ありません。
ありがとうございました。

by Sho (2015-03-28 19:48) 

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