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今井美樹「半袖」 [歌手]



この歌を知ったのは、もう十五年以上も前だ。

彼女のアルバムを順番に聴いていき、何番目かに入っていた。

バイオリンの流れるような旋律が、静かな波の様に始まり
波が引いた後、ピアノのソロが近づく足音のように入る。



    その人を見た


最初の言葉である。

その人とは誰なのか?

それは、続く言葉でわかる。



    子供と遊ぶ笑い声が
    庭にこぼれてた

    初夏の匂いの駅に降り立ち
    木立揺れる長い坂道



好きな人の妻、である。


この歌の主人公は、妻子のある人を好きになり
あるとき自分の気持を抑えきれずに、彼の家族を見にいったのだ。

その日は平日だろう。

土日なら彼にわかってしまう。

彼女は勤めを休み、彼の家の最寄り駅に立ったのだ。

そこは、彼が毎日通る改札口だ。

自分が見たことの無い彼が、いる場所だ。


彼の家への道を歩く。

初めての場所。

この景色を見ながら、この傾斜の坂を、彼は毎日歩いているのだ。

そして週末には、彼の隣に家族が並ぶ。


彼女の気持とは裏腹に、初夏の風は爽やかに吹いている。

郊外の住宅地にふさわしい並木道の葉を揺らしている。


遠目に彼の家を見つけ、少しずつ近づいていく。

庭にいたのは、彼が一番愛した人だった。





妻子のある人と付き合ったとき、女が敗北感を得るのはいつだろう。

多分彼の妻が、「母」でいるのを目の当たりにしたときではないだろうか。

男と抱き合うことは出来ても、その先の、「彼の子を産む」ことを許されるのは妻だけなのだ。



華美な化粧をせず、髪は一つに束ね、質素な服を着た彼の妻は、子供と遊んでいた。


そのときに彼女は確信するのだ。

彼の一番大切な人は、この人だ―



好きになった人は、たまたま結婚していた
結婚は結婚、心までは縛れない
同じ人を生涯ずっと愛するなんて不自然


もっともらしい言葉はたくさんあるが、その時彼女は
自分の心で感じ取るのだ。



    さようならさえ言い出さなければ
    終わることのない二人だけど

    あなたは愛してはいけない人じゃなく
    決して愛してはくれない人



彼は、この人を愛していたから妻にしたのだ。
そして、この人との子供をもうけたのだ。

彼は、この人たちを亡くしたら泣くだろう。
でも私を亡くしても、しばらく悲しんだ後、忘れていくだろう。




この曲は、本当に美しい曲だ。

そして今井美樹の、真っ直ぐに澄んだ声とよく合っている。


「結婚していても、本当に彼が愛しているのは私」と、つい思いたくなるが
多くそれは間違いだ。

この歌はそのことを、真っ直ぐに突きつけてくる。


しかし歌い手の今井美樹は、又それをしっかりと受け止めるのだ。



    愛し続ける勇気を、それでも私は捨てない



彼の妻と競うのではなく、自分の心との闘いなのだ。

相手への挑戦状ではなく、自分への宣誓だ。



「半袖」という題は上手いな」と、思う。


普段着の白い半袖。
そこから伸びる、細い腕は「美しかった」。

彼女はそれを見たときに、全てを悟ったのである。





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コメント 18

カオリ

長いこと聴いていませんが、今井美樹の歌の中ではワタシはこの「半袖」が一番好きです。
彼女の透明な声が、消しようのない哀しさとして押し寄せてくる。。。そんなイメージです。
by カオリ (2008-05-25 16:35) 

Sho

(^-^)カオリさん
ありがとうございます。
>消しようのない哀しさとして押し寄せてくる。。。
ずこくわかります。

この曲、隠れた名曲ですよね。
by Sho (2008-05-25 18:39) 

スー

聴いたことのない曲ですが、聴いてみたくなりました。
でも、哀しい曲ですね。
by スー (2008-05-25 19:53) 

Sho

(^-^)スーさん
ありがとうございます。
とってもきれいな曲です。確かに哀しい曲ですね。
旋律がとてもきれいで、今井美樹の声も透き通ってきれいで、そこがなおさら哀しい感じがします。
by Sho (2008-05-25 20:51) 

Sho

(^-^)takemoviesさん
nice!、ありがとうございます。
by Sho (2008-05-29 04:42) 

Sho

(^-^)マヌカンさん
nice!、ありがとうございます。
幾つになって聴いても、大好きな曲です。
by Sho (2008-08-12 05:19) 

m

私もこの「半袖」の歌詞解釈についてはブログ主さんとほぼ同様ですけど、「半袖」は「昼」の服装なので、そこをのぞき見している「彼女」は彼と「夜」にしか会えない(「半袖」を着ることはない)、ということもサジェストされています、たぶん。
それと、「その人」は、彼の本妻ではなく、彼自身である、とする解釈もあるそうです。たしかにそう考えても矛盾はしないですし(昼の「その人」と夜の「あなた」は別人格だと考える)、むしろ「決して愛してはくれない人」の意味がよりしっくりくる感じもします。

どちらにしても、いろいろ考えさせる意味深な詩ですね。
by m (2010-04-12 20:37) 

Sho

(^-^)mさん
コメント、ありがとうございます。
なるほどですねえ。いろんなイメージが湧き、いろんな解釈ができますね。

私は、彼女と彼は社内恋愛のような気がしたんですね。
なので、彼女の半袖姿も彼は見ている。
でも、彼女が会社に着てくる半袖と、彼の妻が家で子どもと遊ぶときに来ている半袖は、素材も何も全く違うように思うんです。
彼の妻が着ている半袖は、多分木綿で白くて、質素なもののように思うんですね。でも、そこから伸びる白く細い腕は、内側から満たされて鈍く輝いているようにも思うんです。

この曲はわりと地味だけれど、ファンがたくさんいるようですね。
どうもありがとうございます。
by Sho (2010-04-12 22:48) 

m

今井美樹には「夢の夜」(自作詩)っていう不倫ソングもあって(YouTubeにあります)
ごく普通のラブソングと思いきや、

「彼女」も「あの人」もない
ただ二人の夜

これ凄いでしょ。たったこれだけで「不倫」だってわかっちゃうんです。
二番には

罪を重ねてゆくだけ
でも止められない

やたら変な理屈をこねる不倫ソングが横行するなか、このシンプルさは光りますし、なによりリアリティがあります。青島幸男じゃないけど、「わかっちゃいるけどやめられない」んですよね。まあ、今井本人もリアルで「止められなかった」みたいですけどね(笑)

by m (2010-04-17 08:55) 

Sho

(^-^)mさん
こんにちは。「春の夜」私、大好きでした。その曲が入っていた「ジュビア」というアルバムもすごく好きでしたが、その中でも一番好きで、一時そればかり聴いていました。
ただある時フッと、その当事者たちの恋人の気持ちになってしまったことがあったんですね。そしたらなんだかすごくショックで、それ以来あまり聴けなくなってしまいました。
この曲の作詞が今井美樹と知ったときには、「ああ、こういうことがあったのかなあ・・」と、やっぱり思ってしまいました。
今井美樹は、布袋さんに会う前の楽曲の方が好きです。
by Sho (2010-04-17 14:18) 

Judelaw

はじめまして。
今井美樹の「夢の夜」を最近、聞いて気になって検索したら
このサイトに繋がりました。
「半袖」、、、何気に聞いてましたけど、こんな深い意味が
あったのですね、、切なすぎる。。

「夢の夜」の
 答えのない恋だと分かってる はじめから
 それでも出会えたこと 私には幸せに思えた

っていうくだりが好きです。昔は単なる恋愛ソングだと思ってましたが、
不倫を前提に考えると、、、切ないですね。。
by Judelaw (2015-04-28 19:30) 

Sho

to judelawさん

はじめまして。
コメントをいただき、ありがとうございます。

私も、「夢の夜」が大好きでした。
その曲が入っているアルバムの中でも一番好きで、繰り返し聴いたものでした。
コメントをいただいて、この文書を改めて読み、書いてからずいぶん月日が経っていることに驚きました。
恋は、「枷」がある方が燃え上がるんですよね。
恋の醍醐味は、そこにあると思います。
もう何年も、恋も愛も無いような暮らしを送っています。
不倫と呼ばれる恋は、燃え上がりやすいんですよね。大きな「枷」があるから。それ自体が「禁忌」だから。
でも、実は劇的な「枷」が無い状況で、相手を想い続ける方が、ずっとずっと難しく、エネルギーのいることだと思うようになりました。

この曲は、詩も印象的だったけど、今になると、曲そのものや編曲の方により惹かれるようになりました。

不倫と呼ばれる恋は確かに切ないけれど、その切なさの中に「甘美」がありますね。その甘美さが、人を惹きつけて止まないように思います。
by Sho (2015-04-29 19:44) 

Judelaw

Shoさん、コメントへお返事いただきありがとうございます。

この夢の夜が収録された「Lluvia」というアルバムは、
シングル曲が全くないにも関わらず、粒ぞろいの素晴らしい選曲
だったと思います。
「夢の夜」とテイストが似ている「Lluvia」という曲も大好きでしたし、
ラストの「DISTANCE」や壮大な「笑顔」ですとか、
もう挙げだすときりがないですね。

高校生の当時、僕は今井美樹の澄んだボーカルが大好きで、
アコースティックな感じの編曲とシンプルな曲構成で、
曲の雰囲気が大好きでしたが、
逆に今は、詩の世界にひかれるようになりました。

なるほど、、「枷」の存在は大きいのかも知れませんね。
「実は劇的な「枷」が無い状況で、相手を想い続ける方が、
ずっとずっと難しく、エネルギーのいること」って深いですね。

恋の切なさは人を惹きつけて止みませんが、
「甘美さ」は幸せと不幸の表裏一体なものなのかもしれませんね。

by Judelaw (2015-05-01 11:00) 

Sho

to Judelawさん

「Lluvia」は、私もすごく良いアルバムだったと思います。
繰り返し繰り返し聴いていました。

恋の甘美さは、「辛さ」があるから一層引き立つのだと思います。
例えば不倫と言われる恋も、周りが皆「どうぞどうぞ」と言い出せば、きっと冷めてしまうように思います。

Judelawさんは男の方だったのですね。
なぜか勝手に、女の方だと思い込んでいました。
コメントを、ありがとうございました。

by Sho (2015-05-04 06:25) 

かのん

はじめまして。
彼女の30周年アルバムが発売になると知り、ふと私が大好きな曲名は何だったかと 検索していたらこちらのサイトにたどり着きました。
「半袖」大好きでした。
私も当時 大好きだった人が別の人と結婚してしまい、繰り返し聞いていた曲でした。
私はこれは「大好きな彼」が子供と遊んでいる姿を見たんだとずーっと思ってました。
奥さんの方を見ていたんですね。もう一度聞いてみます。

by かのん (2015-05-14 21:49) 

Sho

to かのんさん

はじめまして。
コメントをいただき、ありがとうございます。

この「半袖」の人物は、かのんさんと同じく、「愛した男の人」という感想も拝見したことがあります。
この曲を聴いた人の数だけの「半袖」が、存在するのだと思います。

私もある時期、今井美樹の曲をよく聴きました。
私自身が、誰かに強く惹かれている時期だったと思います。
今はもう、そういう気持ちはなくなりました。
この曲の主人公の思いつめた気持ちさえ、以前のようにすんなりと、受け止められなくなっています。

ただこの曲は、そのメロディーや、平日の静かな住宅街の様子や、そこを歩いていく若い女の人の気持ちが、とてもよくあらわさせていると思っています。
by Sho (2015-05-17 21:34) 

みけ

初めまして、この記事にとても感動しました
この曲は世代ではありませんが、たまたま出会い今聴いています
ただ歌詞を追っているだけでも胸が苦しくなるようですが
この記事を読み、改めて聴くと
切なさや哀しみと共に、言い様のない絶望感や閉塞感すら覚えます
やはり奥様になど張り合ってはいけないのですね
なんだか胸に詰まります
本当に美しい記事を読ませて頂いて、ありがとうございます
by みけ (2015-08-24 15:13) 

Sho

to みけさん

初めまして。
 拙い文章に目を留めていただき、コメントを、ありがとうございます。
何年も前に書いたものですが、いまだこのようにコメントを残していただけるのは、おそらくこの曲が、多くの人の心に共鳴する何かを持っているからだと思います。

 自分にもかつて、このような経験があったようにも思いますが、
それは遠い遠い、いつもは忘れているような遠い記憶の出来事でした。

それでもこの静かな曲の、ピアノの前奏と、当時の今井美樹の歌声を聴くと、平日午前中のあまり人の多くない改札に立った「彼女」の気持ちに同化してしまい、涙が溢れてきます。

世の中に「不倫」と呼ばれる恋を歌った曲はたくさんありますが、
この曲は、不倫の当事者が実は気付き、けれどいつもは忘れようとしていることを、しっかりとあらわしていますね。

もっと早く出逢っていれば、とか
紙きれ一枚のことなのに、とか
あなたの本当の心は私に、とか
そういうことを言っていませんね。

彼女は、もう、彼の奥さんに負けていることを十分に知っていました。
それでも愛そうと思うのですね。


私が素直な気持ちでブログを書いていた頃の文章です。
「美しい」と言っていただけたことを、心から感謝いたします。

by Sho (2015-08-24 21:39) 

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